パナソニック ルミックス DMC−TZ1について


DMC-TZ1
バランスよくまとめてあるが、後裔機のDMC−TZ3に慣れた目で見るとイモっぽさを感じる。

☆ジャンク度☆
不具合無し
撮影可能


DMC-TZ1 DMC-TZ1
 ライカ判換算で35〜280mmF2.8〜4.3の光学10倍ズームレンズ搭載。
 お好きな方は嬉しいバリオエルマリート。

DMC-TZ1 DMC-TZ1
 ライカのレンズが10倍ズームで手振れ補正付きなのだから、これはめでたいなあ。

DMC-TZ1 DMC-TZ1
 広角側では鏡筒は伸びない。その分、起動は早い。

DMC-TZ1 DMC-TZ1
 全体的なバランスはちょっと隙がある感じだ。

DMC-TZ1 DMC-TZ1


DMC-TZ1 DMC-TZ1
 合理化がほどほどなので、逆に使いやすい操作系。

DMC-TZ1 DMC-TZ1
 バッテリーはグリップ部に格納。

 「TZ」と言えばヤマハのロードレーサーだが、我々にとって連想するのは公道マシンの「TZR」である。中でも「後方排気」と呼ばれるモデルを所有することは「気合が入っている」とされた。4stが「FZR」なのだから「T」は2stを表しているのだろう(未確認)。「Z」は水冷を意味すると聞いたことがある。同じ「Z」でもカワサキになると「4st空冷4気筒」を意味するから、単車の命名規則はややこしい。大体、単車の世界は排気量が10倍も違うのに同じシリーズだとされて、ウルフ50で牧歌的に楽しんでいた拙僧だって奇妙に思ったものである。RG50ガンマとRG500ガンマが兄弟だと言われてもねえ。
 まさか天下のパナソニックが単車にインスパイアされたとは思えないが、パナソニックにも「TZ」と「FZ」があるのだ。先に登場したのはルミックスDMC−FZ1である。これはオリンパスのキャメディアC−700UZが開拓した、コンパクトカメラのボディと高倍率ズームレンズを組み合わせというジャンルに沿ったものだ。今となってはコンパクトに思えないが、21世紀初頭では、この位のボディマスでもコンパクトを謳って文句は無かったのだ。DMC−FZ1のコンセプトは「手軽に手振れ補正機構付き高倍率ズームレンズを楽しんでほしい」と言う物だった。発売時にはガジェット好きを中心に熱狂的に受け入れられたのだが、早い段階で不満がネット上を走りだす。つまり画質がイマイチなのだ。特に肝心の望遠側の描写が甘い。実はDMC−FZ1にはカラクリがあって、コンパクトな高倍率ズームレンズを実現するために、当時の常識的な撮像素子より、かなり小ぶりな撮像素子を採用していたのだ。個人的には、200万画素級なのは大した問題でないと思う。しかし、パナソニックの語るソフトウェアの補完技術によるクオリティの高い画像を作り出すというのが、胡散臭い。フィルムの性能が上がったから110判の大きさで十分とした、コダックの思惑を思い出して心地よい物ではないな。基本的にオートカメラであり、ユーザーが介入できる余地が少ないのも、何かと弄り回したいガジェット連中の不満になった。同時期のオリンパスは300画素級のキャメディアC−730UZを出していたが、これは手振れ補正機構を搭載しない物の、画質は十分でマルチモードAEを初めとしたきめ細かな撮影時の設定が可能であった。なので巷では手振れ補正を取ってDMC−FZ1を選択するか、画質を取ってC−730UZを選択するか、悩ましい問題だったようである。それでパナソニックが送り出したのがDMC−FZ10を初めとしたDMC−FZ二桁シリーズである。これはボディサイズが大幅に大きくなったが、様々なマニアル機能を搭載し、レンズも奢ったモノだった。つまり、パナソニックは比較的安い価格帯で手軽さを売りにしたDMC−FZ一桁シリーズと、高額だが柔軟な運用が可能で画質も充分なDMC−FZ二桁シリーズのハイ・ローミクスで高倍率ズームレンズ機方面を戦うと決めたのだ。
 それで、暫くはそのような布陣で戦いを続けていたのだが、新世紀も5年も経つと、流石にDMC−FZ一桁系ボディではコンパクトと言えなくなってしまった。それに、旧世紀とは比べられない程、コンパクトデジカメはモダンで気の利いたルックスになっていたのだ。折しも、割とイモっぽいルックで始まった手振れ補正機構付き光学3倍ズーム機のルミックスDMC−FX1シリーズが、ぐっとモダンになり、ライカ判換算で28mmから始まるズームレンズを搭載してDMC−FX01シリーズとして新しい一歩を踏み出した。この時期にパナソニックは一気に覇権を広げようとした形跡がある。その重要な布石の一つとして常識的なコンパクトカメラの顔をした高倍率ズームレンズ機を送り出した。それが本カメラである。
                ☆           ☆
 パッと見は大学でアメフトクラブに入ったルミックスという印象である。拙僧は既に後裔機のルミックスDMC−TZ3を手に入れていたから驚かなかった。しかし、知らなければ単三電池使用でちょっと大柄になった光学3倍ズーム機だと言われればそうなのだろうなと思ってしまうだろう。それがその実は光学10倍ズームレンズを搭載しているのだ。パナソニックのキャッチフレーズは「旅カメラ」である。丁度、熟年層の婦人が韓流ドラマのロケ地を巡ったり、ヨーロッパのロマンチック街道で浪漫に浸ったり(この際、語源がローマ巡礼にある等と言うのは野暮だ)積極的に金を使っていたから需要があると見込んだのだろう。もっとも、拙僧個人はちょっと取って付けたようなコンセプトに思える。多分、飛躍的にコンパクトにできる高倍率ズームレンズの開発の目処が先に立ち、「旅カメラ」というコンセプトを後付けしたのだろう。市場ニーズに重みを置いた方が、プレゼンでトラディッショナルな頭の役員の方々に理解できたフリをさせて差し上げるのに何かと便利だ。それでも、CMには綾小路きみまろを採用する徹底ぶりは、流石の家電メーカーの覇者たるパナソニックの販売促進ノウハウであろう。
 撮像素子は1/2.5型の600万画素級なのだが、実際に使っているのは1/2.8型相当の領域だけを使用しており、実質的に500万画素級のカメラである。パナソニックのインタビューを読むと、当初から1/2.8型の撮像素子の開発を進めており、その為にレンズを設計したのだが、実績のある1/2.5型を採用することで信頼性を高めたそうだ。イメージサークルが小さければ設計は楽だし、新しく撮像素子を開発するより既存の量産品を使った方がコスト安という事情が見え隠れする。別に、我々のような末端は満足な画像を得ることが出来れば文句は無い。
 肝心のズームレンズは屈曲光学系レンズと従来型の沈胴光学系レンズを組み合わせている。なんだか凄く設計に制約が生じる気がするのだが、後裔機種のルミックスDMC−TZ3より明るいレンズに仕上がっているから、クレバーなマジックがあるのだろう。焦点距離はライカ判換算で35〜350mmF2.8〜4.2の光学10倍ズームレンズである。当然、ガジェット好きからは28mmへの広角化が望まれたが、そういうニーズを想定していないとパナソニックは回答している。フィルム時代もコンパクトカメラのレンズは主に望遠側に発達した。末期には170mmF13とか200mmF13にまで伸びてる。本当に使い物になるか怪しい物だが。どこのメーカーの発言か忘れたが、営業的には望遠が伸びた方が効果的なのだそうだ。ターゲットはあくまでも旅する熟年層なのだ。
 手に取ると常識的な焦点距離のズーム機に比べて重みを感じる。大振りなグリップだが、それほど人間工学的な工夫は感じない。キヤノンあたりだと吸い付くような感触を感じるのだが、指先に緊張感を覚える方が案外ホールディングに都合がよい場合があるので、特に問題点だと思わない。操作系は他のルミックスシリーズを踏襲しており、すんなりと受け入れることができる。特筆すべきは起動の早さである。本カメラはハイブリットな光学系を採用しているせいなのか、電源をオンしてもレンズの伸長を待たずに撮影可能状態になる。つまり、広角側ではレンズは鏡筒基部に収まったままなのである。ズーミングしてもレンズの繰り出しは少なく、取り回しがイイ。電源をオフしても、「通常撮影モード」ならフラッシュモードを覚えているのはありがたいのだが、どうもモードダイヤルのテンションが軽いのか、バックの出し入れをしているうちに知らない間に「かんたんモード」に切り替わっていて、夜景スナップで不用意にフラッシュを焚いてしまうことが何度かあった。夜の新宿だったから、場合によっては周囲の通行人とトラブルが発生するのではと肝をつぶしたものである。
 AFポイントは9点で高速3点、高速1点、1点、スポットの5パターンから選択。高速とそうでないモードの差異は良くわからなかった。フォーカシングスピードも特に違いを感じなかったから、何が違うのか分からない。スポットは本当に中央の僅かなエリアが対象となる。これなどは使い勝手があると思う。AFの精度や速度は標準的な焦点距離のズームレンズ搭載機と大差は無く、つまり不満は無い。感度はオートとISO80〜800までを選択が可能。高感度撮影モードだとISO1600相当まで増感するようだが、拙僧は使わなかった。広角側がF2.8なので、そうとう暗いステージでも撮影が可能である。手振れ補正機構も効果的に機能しているようで、夜景スナップで実に粘る。AEは夜間は満足なさじ加減であったが、雲天〜晴天の屋外では若干オーバーに思えた。実際の所、本カメラの撮影結果はそんなにビビットでも高コントラストでもない。ネット上のレビューを見ると「鮮やか」などと評しているのだが、キヤノンに比べて大分地味に見える。肝心の望遠側の描写ももっさりとしており、格別優れているとは思わない。コンパクトなボディと描写はなかなか両立しないのだろう。
                ☆           ☆
 本カメラの弱点はレンズカバーを内蔵していないのと、広角側が35mmと物足りないところだ。これらは後裔機のルミックスDMC−TZ3では解決している。その際、特徴であった屈曲光学系と従来型の沈胴光学系のハイブリットだったレンズは常識的な沈胴光学系レンズに変更になっている。パナソニックの技術なら、回りくどいやり方でなくても何とでもなるのだろう。但し、明るさが広角側F2.8からF3.3にちょっと暗くなっている。本カメラの強みは夜景スナップにもあるから、その点では後退である。
 発売当時、コンパクトボディで高倍率ズームレンズを搭載したものは三洋やニコンに登場していたが、三洋は例のピストルスタイルだったし、ニコンは回転レンズタイプを継承していたから、本カメラの常識的なスタイリングは逆にユニークだっただろう。

 では、撮影結果(新宿夜歩き編)を見て頂きたい。

(了:2011/9/12)

クラデジカメ系列メニューへ戻る 「意してプラカメ拾う者なし」へ戻る

inserted by FC2 system