リコー キャプリオG3モデルMについて


CaplioG3
もっさりとしたデザインもリコーなりにポリシーがあったのだろうか?

☆ジャンク度☆
不具合なし
撮影可能


CaplioG3 CaplioG3
 ブラックボディはフィルムコンパクトカメラの名機GR譲りである。
 ライカ判換算で35〜105mmF2.6〜4.7の光学3倍ズームレンズ搭載。

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 「modelM」は無印G3よりちょっと高級なのだ。


CaplioG3 CaplioG3
 ボタン・ダイヤル類は適度な大きさながら、節度や感触はイマイチ。


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 液晶ビュワーが小さいのは大した問題ではないのだが、視認性もいまいちである。

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 電池蓋は2段階にスライドして開らき、SDカードと単三型電池2本を格納する。

 1995年、第一次デジカメ世界大戦が勃発した。破竹の勢いで進撃を始めたのは意外なことにカシオのQV−10であった。伝統的なカメラメーカーに常識化していた大鑑巨砲主義からすれば問題にもならない画質だったのだが、撮った画像がすぐ確認できるとか、レンズが回転して自分撮りができるとか、撮った画像をメールに添付して転送できるとか、従来の教本には載っていない機動戦術を可能としたのだ。カシオの進軍に対して殆どの伝統的なカメラメーカーは憂慮しつつも判断を保留したようである。まだフィルム帝国は繁栄の頂点であり、極東の電撃作戦の勝利で軍事協議を変更するには至らなかったのであろう。いち早く、その可能性に着目したのがフィルムメーカーのフジやコダックであったのは興味深い。フィルムや感材の需要の急速な縮小を予測していたのだ。
 それで、伝統的な光学メーカーで初戦から参戦していたのはオリンパスとリコーぐらいである。実はチノンがコダックにカメラを供給していたのだが、そこまで話題を広げるとややこしくなるので割愛したい。オリンパスは画質にもそれなりに拘り、当時は珍しい光学ズームレンズを搭載したDELTISブランドのカメラを送り出していたが、高額だった事もあってか前線を形成することなく歴史の裏に沈んでいる。オリンパスが初期のデジカメ戦線で覇権を握るのは翌年登場のキャメディアブランドの登場を待たねばならない。リコーも一定の画質を確保し、光学ズームレンズを搭載したDC−1で参戦していたが、満足な戦闘に耐える状態にするためには20万円以上の出費が必要だとされ、戦場のリードを取るには至らなかった。コンシューマ層に手が届くようになったのは翌年の96年に登場したDC−2Lからである。携帯端末の様なスタイリングは今使ってもおしろい。当時、リコーはデジカメをオフィス機器の一端として位置付けていたようだ。カシオを凌駕する41万画素級の画像クオリティといっても、価格帯は当時の中の上のフィルム一眼レフが買えるものであり、法人ユースを想定したのだろう。何せ、リコーと言えばオフィス機器の一流企業である。ただ、コンシューマユースも想定しており、翌年の97年にはDC−2Lのエッセンスを継承しながらシンプル・軽量化したDC−3DC−3Zが登場している。常識的なカメラのスタイリングからは離れていたが、当時としてはコンパクトな路線は一定の評価を得たようである。更に98年にはメガピクセルのDC−4が登場している。これも回転レンズ機であったが、当時としてはコンパクトで、使い勝手もフィルムコンパクトカメラに準ずるところがあって、好意的に受け入れられた。当時、画期的であった単焦点で専用電池使用のファインピクス700に比べても、光学3倍ズームレンズ搭載で単3型電池使用は魅力があったことだろう。
 もっとも、その後のリコーのライナップは積極的ではなくなる。単三型電池使用を踏襲しつつも平凡で地味なブツを単発的に発表するにとどまった。リコーが継続してシリーズ化するモデルを登場させるには世紀末である2000年6月に発売したRDC−7を待たなければならない。これはカメラと言うよりPDA端末に近いルックスで、初代のDC−1やDC−2Lを髣髴させるものであった。この路線はRDC−i700で完成を見るのだが、このコンセプトは時代が少々早すぎた。今なら見栄えの良い汎用GUIを搭載して通信回線で動画や音楽をダウンロードして鑑賞や編集ができる冴えたものになるだろう。RDC−i700については大佐殿のコンテンツに詳しいのでご一読いただきたい。
 PDA端末路線はニッチなユーザーに一定の評価を得たようだが、やはり商売としてはこれ一本で成立するには難しかったようだ。新世紀になってリコーはキャプリオブランドを興し、気合を入れてキャプリオRR10を送り出した。この頃は、まだカメラジャーナルも強かったから、リコーのプレリリースも伝えられている。恐らく、リコーの当初想定したていた購買層はビジネス層と渋谷の娘さんだった。この相反するニーズに応えようとした所からもリコーの苦悩が見え隠れする。リコーと言えば一流オフィス機器メーカーだから、ビジネス用途は是非加えたい要素だ。一方でプリクラから派生して携帯電話のカメラで「キュートな私とその周辺」を撮影してメールで送りつける様なカメラ女子の原型が構築しつつあったから、一枚噛むと旨味があると思ったのであろう。21世紀初頭においてコギャル文化は全盛期であり、渋谷系女子ファッションは誰が見ても儲けが出そうなムーブメントだったのだ。現在はムーブメントはシブヤからアキバに遷移している。拙僧は2003年の春から1年間バンクーバに滞在していたが、友人から入手した「チャンプU」がメイドがどうこうという記事を掲載していて不可思議に思ったものである。それは兎も角、リコーがビジネスとコギャルの双方のニーズを満たす為に「カメラらしくないルックス」と「メモ撮影」を想定したようだ。前者に応える為にルックスは携帯電話風になり、クレードルによる充電方式とした。クレードル採用はファインピクス50iとほぼ同時期で、デジカメ界では早い。後者はビジネス用途では見本会場のサンプル部品や時刻表を撮影するニーズが想定できるし、コギャルの連中は爪の先に張り付けたフェイクダイヤとかグッチのコンドームケースとか色々と撮影す物はある。リコーのデジカメは伝統的にマクロが強かったから、従来路線との同一性も確保できた。ついでに若者に受けそうなMP3プレイヤーの機能も搭載したし、これで「Hanako」にでも広告を打てば万全だと思ったのだろう。これらの要素は個別的に見れば的外れではなかったが、結果としては成功しなかった。つまり、まとめた時の商品の魅力に乏しかったのである。なんでも、娘さんに持たせて渋谷でこれ見よがしに持たせてのプロモーションを行ったようだが、これは素人の若い女性と満足に会話をする機会のないオジサンの考えそうな響かない発想である。偉大な中小企業のスズキもDF200でやってしまった事がある。こういう大人の迎合戦略は一番効果が無い。ヤマハのTWやSRだって辛抱強く作り続けてこそストーリーが生まれるのだ。こんなものが売れるのかとブロンコを作ってみてもやっぱり売れないのである。
 しかし、リコーの得意とするロールモデルはオフィス機器の方は知らないが、カメラの方は廉価な実用品をコツコツつくるか、それをベースにした高品位の趣向品なのである。何故、ソニーのサイバーショットP2が売れてウチのカメラが売れないのか、どうせ考えても分からないのだから、分かったようなフリをするより実用に返ったほうが良い。そこで、リコーは更に「レスポンス」と「28mmの広角をカバーするズームレンズ」、「単三電池使用」を柱に加えて実用性を高める。21世紀初頭はまだまだ動くものはコンパクトデジカメでは撮影できないとされ、35mmより広角の焦点距離をカバーする物は稀であった。単三型電池使用の優位性は多数派から外れつつあったが、広角レンズで迅速にスナップ撮影したいニーズは違いの分かる層であり、フィルム世代の保守的な層とも重なるから好意的に評価されたようである。それでも、リコーがデジカメ市場に影響力を持つには時間が掛かった。リコーのデジカメが市場の一角を担うきっかけになったのは2007年に登場したGRデジタルであろう。これによって、最後までデジカメ転向に懐疑的であった最も保守的なカメラ爺が安心して金を捨てる事の出来るデジカメが現れたことになる。エプソンのRD−1は未練がましい物があるし、M型ライカのデジカメの価格帯は既に写真で生計を立てる必要のない方の購買力を超えている。本当の所は0円プリント代だって惜しいと思っているのだから。
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 さて、本カメラである。登場したのは2003年の3月であるが、本カメラは「モデルM」であり、ベースとなった無印のキャプリオG3は2月に登場している。リコーが方向性を模索している煮え切らない時期のカメラである。コンセプトは明快である。「レリーズ後のレスポンス」「AFのレスポンス」「1cmまで寄れるマクロ」「従来のカメラとは線を画したスタイリング」「単三型電池と専用リチウムイオン電池併用」「タフな駆動時間」であろう。不明快なのはターゲットにした購買層である。ものの資料によると有名建築デザイナーの黒川氏によるデザインだそうなのだが、何で建築デザイナーが出てくるのかもよくわからない。既に「渋谷の娘さん」をターゲットから外しているのだろうが、あえて物質的な魅力を排するのがビジネス用途において、社内の調達部門にも覚えが良いのだろうか。そういう意味で言うと週末のゴルフ場は似合いそうだ。リコーは自信があったらしく、前述の「無印」をベースとしてカメラメモ入力&音声認識メモ機能を搭載した「モデルS」、本カメラの「モデルM」、コンパクトフラッシュスロットを増設し「無線LANカード」や「PHS通信カード」等を拡張する業務仕様の「キャプリオ プロG3」が存在する。リコーがプロを写真で生計を立ててる方ではなく、本業の都合上写真・画像の撮影が必要とされる方に定義したのは興味深い。あまり知られていないが、リコーからはイワユル「工事デジカメ」が複数登場している。
 本カメラは「モデルS」と同様に外装を「マグネシウム合金ダイキャスト」に変更している。リコーに言わせると「高級コンパクト銀塩カメラ“GRシリーズ”にも採用されているもの。高品位なボディで、撮る道具としての満足感を演出した。」のだそうだが、どこを取って「満足感を演出した」のか水冷2気筒のカワサキも普通にカッコいいと思う拙僧でも理解できない。多分、モックアップも見ずにパワーポイントの「金型を変えずに高級感を出せます」の文言に納得してハンコを押したマネージャーがいたのだろうな。
 撮像素子は300万画素級でライカ判換算で35〜105mmF2.6〜4.7の光学3倍ズームレンズを搭載する。マクロモードで広角側に1cmまで寄れるが望遠側では16cmに留まる。しかし、常識的なマクロ撮影に不足はないだろう。ISO感度は800まで用意しているので大抵の撮影シーンに応えると思われる。
 カメラを構えて目に入るのが大き目なモードダイヤルである。中央に電源ボタンを配置しているのだが、これがレリーズボタンと同じくらいの大きさで紛らわしい。ボディ上面に電源ボタンとレリーズボタンを配置しているカメラは多いが、大抵の場合は電源ボタンの大きさを小さく形も変えているのだが、本カメラでは色こそ違う物の同じ円であるのも混乱を招く。ズーミングのシーソーボタンも十字キーやコマンドボタンも一機能一ボタンのポリシーはありがたいのだが、節度がイマイチでタッチングは良好とは言えない。本カメラはスペック的にオリンパスの廉価クラスのX−100に近いのだけど、それと比べても感触はイマイチである。但し、X−100はxDピクチャーカード使用は兎も角、フラッシュモードは覚えないし、電池消耗には著しく弱いというか高額なリチウム電池CR−V3をつめないとハッキリ言って使い物にならない等、運用に深刻な制限がある。その点、本カメラの電池の持ちは素晴らしく良い。
 起動にしろ撮影にしろレスポンスはすこぶる良くて看板に偽りはない。安普請なのは液晶ビュワーで、小型なのは大して気にならないのだが、透過型アモルファスシリコンTFT液晶と立派な肩書ながら晴天下ではほとんど役に立たない。レンズの真上に配置してパララクスを抑えた光学ファインダーを搭載しているが、2003年登場時のデジカメで光学ファインダーをあてにして撮影するのはナンセンスである。フィルムのGRシリーズからの乗り換え組なら気にしないと思ったのであろうか?そもそも、GRシリーズを踏襲したという「高品位で満足感を演出した」ボディだが、表面の梨地が汚く剥がれていておよそ高品位とは程遠い。定価ベースで6万円を超えるデジカメとしては如何なものかと思う。2段階でスライドするSDカード兼電池蓋も建付けがイマイチで、これを手に取った建築デザイナーさんは困ったことになったと思ったのではないか。
                ☆               ☆
 拙僧のコンテンツのポリシーは「日の目を見なかったカメラを褒めちぎる」なのである。基本的にはレスポンスが良好で特殊な操作系でなく、フラッシュモードを覚えてくれれば特に辛い点は付けないつもりだ。ホワイトバランスや露出補正がワンタッチで操作できるとか大型の液晶ビュワーを搭載しているとかは、拙僧のデジカメ撮影のニーズではないので別に気にならない。しかし、本カメラは多くの撮影に対してのニーズを満たしているにもかかわらず、全体的なまとめが不協和音を奏でており不快である。有名建築デザイナー氏の手によるというのも、権威主義に馴染めない拙僧には気に入らないなあ。キャプリオシリーズは前述の通り、レスポンスの良さでフィルムコンパクトカメラのリズムでスナップ撮影したい連中の関心を惹いたものの、それなりに評価をされるようになったのは800万画素級の撮像素子に28mmから始まるズームレンズを組み合わせたキャプリオGX8辺りからだ。
 拙僧がカメラ人類としてデビューした頃は既にリコーは一眼レフを作っていなかった。もしかしたらXR−8スーパー辺りは新品が流通していたかもしれないが、リコーの看板を背負っていたとは言えまい。その点、素性の良い廉価カメラのR−1とイメージを踏襲しながら高品位な高級カメラのGRシリーズのハイローミクスは、ニコンやキヤノンと言ったパワーメーカーとは異なる利口さを感じたものである。折しも、本年は派手さはないが実直で安定感が好ましいペンタックスブランドを統合する。近年のペンタックスはニッチな市場をターゲットにしていたからリコーとも親和性が高いだろう。キャプリオブランドは既に終了したようだが、リコーにしろペンタックスにしろ、継続的な優良製品を期待したいものである。

   では、撮影結果を見て下さい。

(了:2011/8/19)

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