ニコン クールピクスS600について


COOLPIX_S600

キムタク効果でガーリー・フェミニン系女子もクールピクスのユーザーとなった

☆ジャンク度☆
不具合無し
撮影可能


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 ライカ判換算で28mmから始まる光学4倍ズームニッコールを搭載。
 無論、手振れ補正機能と顔認識AFを搭載している。

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 フラットなボディは重厚感がある。

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 ボタン類は小さめで大柄な欧米人には手に余るかもしれないな。


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 大型の液晶ビュワーは切れがよく見やすい。


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 液晶ビュワーと同期するマルチロータリーセレクターの操作性はまずまず。




 伝統的にニコンは普及機・入門機に弱いとされていた。朝日ソノラマの本などで、ニコレックスの時代から苦労した話が読み取れる。多分、昔のニコンの考えはまず高級機があって引き算によるダウンサイジングを行っていたのであろう。ニコンFのペンタプリズムを安物にして、ボディも工作しやすいユニット化したダイキャストにして、シャッターを外注に出して出来たのがニコマートFTである。当時は庶民がニコンFを買うなどということは容易ではなかったから、ニコマートにニコンFの鱗片が見受けられるだけでも満足だったに違いない。だから、他社の普及機に比べて高くついてもむしろ喜んで金を払った。しかし、キヤノンの考えは違った。キャノネットは2万円を切るEE距離計連動機にニーズがあると判断したところから始めたのだろう。0から始まって2万円以下で採算のあるボディやレンズ、生産設備の設計を足し算していった。出来上がったら想像以上の効率化で18800円で儲けが出るカメラが完成した。そんな感じだったと思われる。そこには「ニコンの光学技術ならここは譲れない」などというヒューマニズムの入る余地はない。100円ショップの商品は技術・生産能力が無いから100円の商品しか作れないのではない。100円で採算が合う商品を作る技術・生産能力があるのだ。そういうニーズ先行の商品開発はニコンでも十分にされていただろうが、実際の市場の受け具合からすると今一歩響かなかったと言わざるを得ない。女子やボーイズ層を狙って「F」の称号を控えたEMやUは、ニコンとしては大英断だったのだろうが、市場にしてみればFマウントだって数ある一眼レフカメラの1規格に過ぎない。結局、喜んだり悲しんだりしたのは宣伝なんてしなくてもニコンを買う連中だけだ。

 当初、デジカメ参戦には慎重だったニコンが1998年3月に本格的な「写真クオリティのデジカメ」として発売したのがクールピクス900だ。実際に撮影した方々には、その画像で「流石、ニッコールを搭載したデジカメだ。」と評価が高かったようである。しかし、大ヒットしたとは言い難い。理由としては、デジカメ史に残るヒット作、フジフィルムのファインピクスファインピクス700の登場と重なったことが挙げられる。それまでデジカメと言えば、液晶ビュワー非搭載の特殊な物を除けばウスらデカいソープケースめいた気の利かないパッケージングが定番だったが、当時にしてはコンパクトでフィルムカメラでは見られなかった縦型ボディに金属外装の組み合わせは新時代を思わせた。歴史的に見て、デジカメがフィルムコンパクトカメラの代用品として使い物になると認識されるようになったのはこの頃だろう。また、そもそもニコンが流通量を抑えた形跡がある。まだまだニコンはデジカメへの本格投資に慎重だったのだろう。クールピクス900シリーズは翌年の1999年3月に登場したクールピクス950で一定の完成度を得た。操作系の合理性は今一歩で、起動時に望遠側にオフセットするズームレンズなど、何かと使い勝手には問題があったが、ボディの仕上げをを当時のフィルム一眼レフカメラの高位機種と同様の梨地にして高級感を持たせるなど、ニコンデジカメの最上位としての威厳を感じることができた。市場の評価も高かったが、それでもニコンの生産調整は続いていたようで、当時のネットニュースを見ると供給不足を伝えている。

 評価は高くてもクールピクス900シリーズは回転レンズ機であり、またボディも大柄であるから、よりニコンのデジカメを市場に広めるにはスタンダードなコンパクトカメラが必要となる。クールピクス950の発売以降、クールピクス700やクールピクス800を発売するが、撮影画像の評判は高い物の流通量は限定的である。ニコンが初めて積極的に売り出すコアモデルとして発売したのが世紀末の2000年9月に登場したクールピクス880だ。1.8型の300万画素級撮像素子に、光学2.5倍のニッコールブランドのズームレンズを搭載しただけでなく、きめ細かなシーンモードの登録やマルチAEモード、よりシャープとみなしうる画像を自動的に選択・記録する「ベストショットセレクタ(BSS)」の搭載などゴージャスな機能が満載である。価格もいい値段だったが、当時は300万画素級といえばプレミアムであり、フィルムカメラと置き換えることのできるオーソドックスなスタイルのニコン製デジカメを渇望していた方々にとっては、安心してお金を払えるモデルとなった。

 市場の評価もそこそこ良かったが、残念ながらIXYデジタルの牙城を切り崩すことはできなかった。翌年、価格を抑えた200万画素級のクールピクス775を発売する。ニコンは仮想敵機種としてIXYデジタルを意識し、本気で勝つ為の体制で挑んだと見られる。ボディサイズはIXYデジタル(初代)と同等だが、無機質なフラットボディのIXYデジタルに対し、丸みを帯びた軟らかいデザインとした。イメージキャラクターもクレイアニメのクーピー一家を創作。クールな中田(あっしの評価ではなく、市場はそういう評価だったのだ)に対して暖かみのあるアナログ感覚でファミリーユースに溶け込もうとした。しかし、実際に使ってみるとグリップも効果的で使い勝手もよく考えられた良いカメラなのだが、どうも量販店の陳列棚では存在感を発揮できない。この道の大家である田中長徳氏の言葉を借りれば「どの購買層にも全く魅力を感じさせないルックスながら、画像を記録するには極めて優良」というのが市場の評価であった。以後、長らくライバルメーカーの後塵を浴びることになる。

 思うに、ニコンの失敗は「家族みんなに愛される」を目指したために、ターゲットがぼやけてしまったことにある。デジアイテムはパーソナルなものである。若い連中は「オヤジくさいファッションは嫌だ」と思っているし、オヤジ連中や「実年齢より若く見られたい」と思っているのだ。実は両者が求めているのは同じものなのだが、そうは思わせないイメージ戦略が大事なのである。誰にでも愛されたいというのは結局誰にも相手にされないのである。カメラそのものにも問題があった。拙僧はクールピクスと名の付くカメラは2ダースは使っているから言ってもいいと思うのだが、どうもニコンは綺麗な画像が撮れれば人間の使い勝手が悪くても構わないと思っている節があった。具体的に言うと起動がやたら遅いとかコンティニュアンスやマクロモードでAFが全く合わないとか、癖が分かってくるとAFも合うようになるのだけど、まあ、量販店の店頭で「ダメだな」と思わせるのに十分であろう。そういう訳で機種名の枝番を3桁から4桁の数字で表していた頃のクールピクスは「常々イライラさせられるが、決まると素晴らしい画像を吐く」とっつきにくい代物だった。

 それがガラッと変わったのはキムタクをイメージキャラクターに起用してからだ。それまでのニコンのイメージキャラクターはどちらかというとコンサバ系かさばけていてもギャルソン系であった。突然のキムタクの「やっぱニコンだわ」に拙僧も含めたニコン老兵は「そこまで台所事情が悪いのか・・・」と悲観に暮れたものである。ところが、暫くするとニコンの評価がグイグイ上がってきたのである。D80の単発で終わるかと思ったキムタクもコンパクトデジカメのクールピクスにも起用され、気づけばガーリー系とかフェミニン系とか、従来のニコンのフォロワー層には無かった連中までニコンのカメラを使うようになった。それで拙僧もキムタク世代のニコンが欲しくなった。そうしたら、たまたまキタムラジャンク駕籠の定期偵察でクールピクスS600を見つけたのである。3000円は拙僧の買い物としては高い価格帯であるが、バッテリーも生きていて動作確認もできた。何しろ、見つけた当時は発売から1年も経たない頃だからラッキーだったと言えよう。

                       ☆              ☆

 当時のクールピクスはPシリーズ、Lシリーズ、Sシリーズの3種類を展開していた。Pシリーズはスタンダードモデル、Lシリーズは廉価モデル、Sシリーズは単刀直入に言うとIXYデジタルをライバルとしたモデルである。拙僧の手に入れた個体はガンメタリック(アーバンブラック?)である。ヘアライン加工したステンレスボディが鈍く光ってイイ感じである。無論、フラットな形状だからホールディングはそれなりだけど、親切心でグリップを付けたクーピースタイルの受けがイマイチだったのだから市場はそういう事は気にしないのだろう。右人差し指の横っ腹と親指で摘まむように構えるのがこの種のカメラの構え方になる。その為に、ボディ背面には大型ビュワーに押しやられた小さな操作系の配置を工夫して、親指の置き位置を確保している。発売当時、この種のカメラとしては世界最小だったそうだ。ニコンの気合の入れ方が感じられる。

 撮像素子は1000万画素級である。これにライカ判換算で28〜112mmF2.7〜5.8の光学4倍のズームニッコールレンズを組み合わせる。勿論、手振れ補正機能を搭載し、レンズシフト式でシャッタースピードにして3段の補正を行う。感度はオートでISO100から800、高感度モードでISO100〜2000、マニアルでISO3200を用意する。起動は当時世界最速と言われ、電源ボタンの押下から撮影可能状態になるまで1秒かかるかかからないくらいである。AFも迅速で正確。ほぼ無敵と言っていいだろう。

 大型ビュワーに押しやられてボタン類はかなりコンパクトになっているが、操作世が犠牲になっているとは思わない。特徴的なのはOKボタンをセンターに持つダイヤルリングで、これは押し込むと十字キーの役割もこなす。ニコンではロータリーマルチセレクターと呼んでいる。リング回転による操作はアイコンをリング状に表示するモード選択でも使用する他、通常のメニューでも時計回りでカーソルを下移動、反時計回りでカーソル上移動を割り当てる。慣れてくると十字キーとして押下するよりも素早い設定が可能だ。電源OFFでもマクロモードやフラッシュモードを記憶するのはありがたい。操作系で気になるのはマクロモードに切り替える際に「十字キーの下を押下しメニューを表示」、「十字キーでメニューを選択」、「OKボタンを押下」と3アクションを必要とするのだ。折角、マクロモードを十字キーに割り当てているのだから、押下の繰り返しでモードが切り替わる方がイイ。

 本カメラの欠点らしい点は電池の持ちがイマイチなくらいだ。もっとも、1回の充電で150枚も撮影できるのだから、小さな電池の割にはよく持つという見方もある。それは分かっているのだが、今や格安の2GのSDカードを詰めると液晶ビュワーには680枚以上の撮影可能枚数を表示するから、さてこれからと思ってバッテリーが切れると萎えるものだ。小さいから予備を持ち歩くのは苦にならないが、定価ベースで5250円もするのだから、気軽には追加できない。本カメラのバッテリー「EN−EL10」はフジフィルムの「NP−45」やオリンパスの「LI−40B」と互換性があり、他にもカシオやペンタックスのデジカメでも広く採用している。拙僧はそういうバッテリーの入ったジャンクを数台確保してあるので困らない。

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 キムタクを起用してからのニコンは元気があるが、それは何もイメージキャラクター戦略の効果だけでは無いようだ。従来のクールピクスは画質優先で使い勝手の悪さを押し付けている傾向があった。それは親切なヘルプ表示をすれば解決するものではない。本カメラにはユーザーのニーズから昇華した完成度の高さが見える。細かく見ると、メニューの使い勝手などが気になるが、家電メーカー製のライバルと比べて見劣りはしない。

 恐らくニコンは、ニコンのブランドを持続的に勝てる物とするため、かつて無いほど真剣にユーザーニーズを起点にロードマップを考えたのだろう。その総合戦略の一端をキムタクに託すのはベタといえばそうなのだが、結果的には良いシナジー効果を生み出したようだ。もし、ニコンが考えすぎて訳が分からなくなっていたら、今頃は秋元康に金を払う羽目になっていたかもしれない。ニコンは以前にもMAXに看板を任せたことがあったのだから。

   では、2011年 上海:上海上陸編(クールピクスS600)を見て頂きたい。

(了:2011/7/18)

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